遺言書の財産目録の書き方|パソコンOKの部分と保管制度の注意点

自筆証書遺言の書き方で悩む相続世代の日本人男性 遺言書作成

「遺言書はあるのに、どの土地のことなのかわからない」——相続手続きの現場では、財産の記載が曖昧な遺言書が原因でトラブルに発展するケースが後を絶ちません。財産目録は、この問題を防ぐための重要な書類です。2019年1月の民法改正により、財産目録はパソコンで作成できるようになりました。ただし、「どこまでがパソコンOKで、どこからが手書き必須か」「法務局に預ける場合はどんな書式が必要か」「財産が変わったら目録はどう差し替えるか」——これらを正確に把握していないと、せっかくの遺言書が無効になったり、手続きで使えない書類になったりするリスクがあります。本記事では、財産目録の書き方を財産の種類別に詳しく解説するとともに、保管制度を使う場合の書式ルールと、更新・差し替えの実務手順まで網羅します。

財産目録がないと起きること——相続手続きが止まった家族の実例

ある60代の男性が残した遺言書には、「預金はすべて長女に相続させる」と書かれていました。しかし故人はネット銀行を3行、地方銀行を1行、証券会社の特定口座を2つ持っており、遺言書にはどの口座のことかが一切記されていませんでした。長女は証拠書類を集めるだけで5か月かかり、その間に一部の口座で口座管理料の引き落としが発生し続けました。


財産目録は、遺言書本文とは別に作成する「相続財産の一覧表」です。誰がどの財産を受け取るかを定めた遺言書の本文と組み合わせることで、手続きで使える具体的な情報(口座番号・地番・証券コードなど)を整理して記録しておくことができます。財産目録は法律上、作成が義務付けられているわけではありません。しかし財産の種類が複数ある場合は、作成しておくことで相続手続きの混乱を大幅に防ぐことができます。

📌 財産目録が特に役立つケース
① 不動産・口座・有価証券など財産の種類が複数ある
② 相続人が複数いて、誰が何を受け取るかを明確にしたい
③ 法務局の遺言書保管制度を利用する予定がある
④ 将来の財産変動(不動産売却・口座の解約・新規開設)に備えたい

2019年法改正で何が変わったか——パソコンOKになった部分の全体像

2019年1月13日施行の民法改正(民法第968条第2項)により、自筆証書遺言に添付する財産目録については自書(手書き)が不要になりました。改正前は、財産目録を含む遺言書の全文を手書きしなければならず、不動産の地番・地積・家屋番号など正確な情報を一字一句手書きで転記する作業が遺言者の大きな負担になっていました。

改正後、財産目録については次の方法が認められています。

方法具体例署名押印
パソコンで作成WordやExcelで一覧表を作成・印刷各ページに必要
第三者が代筆家族や専門家が代わりに書く各ページに必要
登記事項証明書のコピー添付不動産の全部事項証明書を使用各ページに必要
通帳のコピー添付預貯金口座の通帳コピーを使用各ページに必要

⚠️ 注意:パソコンで作成できるのは「財産目録」のみです。遺言書の本文・日付・氏名はすべて手書きが必要です。タイトル(「遺言書」の文字)も手書きが必要です。本文の一部でもパソコンで作成すると、遺言書全体が無効になる可能性があります。

財産目録の書き方——財産の種類別の正確な記載方法

財産目録に決まった書式はありませんが、「後の相続手続きで使える精度」で記載することが重要です。登記や銀行手続きでは、財産目録の情報と公的書類の記載が一致していないと書類として認められないケースがあるため、できる限り登記事項証明書や通帳の情報をそのまま転記することをお勧めします。

不動産の記載方法

不動産は、登記事項証明書(全部事項証明書)の記載に沿って、以下の項目をすべて記載します。「自宅」「実家の土地」といった通称では特定できないため、必ず登記上の情報を使用してください。

記載項目記載例(土地)記載例(建物)
所在東京都○○区○○町○丁目東京都○○区○○町○丁目○番地○
地番(土地)/家屋番号(建物)○○番○○○番○
地目(土地)/種類(建物)宅地居宅
地積(土地)/床面積(建物)○○.○○㎡1階○○.○○㎡ 2階○○.○○㎡
構造(建物のみ)木造瓦葺2階建

預貯金・銀行口座の記載方法

預貯金は、同一銀行に複数口座がある場合に混同が起きやすいため、支店名・口座種別・口座番号まで正確に記載します。残高は変動するため、目録には「(作成時点:令和○年○月末)」と評価時点を明記するか、残高自体を記載しない形にしておくと差し替えの手間が省けます。

記載項目記載例
金融機関名○○銀行
支店名○○支店
口座種別普通預金 / 定期預金
口座番号○○○○○○○
名義人○○ ○○(遺言者本人の氏名)

有価証券(株式・投資信託)の記載方法

有価証券は、証券会社の口座情報と銘柄名(証券コード)の両方を記載します。銘柄数が多い場合は、証券会社の特定口座残高証明書のコピーを財産目録として添付する方法も有効です。

記載項目記載例
証券会社名○○証券
支店名または口座番号○○支店 / 口座番号○○○○
銘柄名・証券コード○○株式会社(コード:○○○○)
株数○○株

負債(借入金・住宅ローン)の記載方法

財産目録には、プラスの財産だけでなく、借入金・住宅ローン・保証債務などのマイナスの財産も記載します。これにより、相続人が相続放棄や限定承認を検討する際の判断材料になります。残債額は変動するため、「令和○年○月末時点の残高:○○○万円(以降は金融機関の残高証明書を参照)」と記載しておくと実用的です。

💡 ポイント:財産目録はあくまで「特定のための書類」です。残高・評価額などの変動する数値は、「評価時点を明記した上で記載する」か「参照先の証明書を示す」かのどちらかで対応すると、差し替えの回数を最小限に抑えられます。

法務局の遺言書保管制度を使う場合の財産目録の書式ルール

2020年7月10日から始まった「自筆証書遺言書保管制度」(法務局保管)を利用する場合、財産目録には通常の注意点に加えて、法務局が定める書式上の制約が加わります。この点は多くの解説記事で触れられていないため、保管制度の利用を検討している方は特に注意が必要です。

要件内容
用紙サイズA4サイズ(遺言書本文と同じ)
印刷面片面印刷のみ(両面印刷は不可)
余白上5mm・下5mm・左20mm・右5mm以上
ページ番号各ページに記載が必要
署名押印各ページに必要(本文と同じ印鑑が望ましい)
通帳コピー等の添付A4にコピーしてサイズを統一する

特に注意が必要なのが「片面印刷のみ」という制約です。通常の財産目録では両面印刷も認められており、両面に署名押印することで有効とされます。しかし法務局保管制度では両面印刷自体が認められていないため、片面印刷で作成し、各ページに署名押印してください。

また、通帳のコピーや登記事項証明書をそのまま添付する場合でも、A4サイズに揃えて印刷・コピーし、余白を確保した上で各ページに署名押印する必要があります。通帳の原寸コピーはB6サイズ程度になるため、A4用紙に拡大コピーして余白を確保するか、必要情報を書き出したパソコン作成のリストをA4で作成する方が確実です。

⚠️ 注意:法務局の保管申請の際、書式要件を満たしていない場合は申請が受け付けられません。作成後は法務局に持参する前に、法務省が公開している「遺言書の様式等についての注意事項」で最新の要件を確認することをお勧めします。

財産目録の更新・差し替えの実務手順

遺言書を作成した後も、財産の状況は変化します。不動産の売却・購入、口座の解約・新規開設、投資銘柄の入れ替えなど、財産目録の内容と実際の財産が乖離していくことは避けられません。財産目録が古いままだと、遺言書本文に「別紙財産目録の土地をAに相続させる」と書かれているのに、その土地がすでに売却済みという事態が起きます。

通常保管(自宅・貸金庫)の場合の差し替え手順

自宅や貸金庫で保管している場合、財産目録は遺言書本文から切り離せる構造になっているため、目録だけを差し替えることができます。ただし差し替える際は以下の手順を守ってください。

  1. 旧財産目録を取り外し、破棄する(遺言書本文は変更しない)
  2. 新しい財産目録をパソコンで作成・印刷する
  3. 新しい財産目録の各ページに署名押印する
  4. 遺言書本文と新財産目録を一緒に保管する(ホッチキス留め+契印が望ましい)

財産目録の差し替えに際して、遺言書本文に訂正を加える必要はありません。「別紙財産目録記載の財産」という参照形式にしておけば、目録を差し替えるだけで対応できます。

法務局保管制度を利用している場合の差し替え

法務局に預けている場合、財産目録の差し替えは単純にはいきません。法務局保管の遺言書は、法務局が預かっている原本そのものであるため、財産目録を含む遺言書全体を一度撤回(払戻請求)した上で、新しい遺言書を作成して再申請するか、既存の遺言書は残したまま別の遺言書を新たに作成して最新の意思を上書きする方法を取ります。

対応方法手順向いているケース
遺言書全体を作り直して再申請払戻請求→新遺言書作成→再申請財産が大きく変わった場合
新しい遺言書を追加作成変更内容のみを記載した新遺言を別途作成・保管申請特定の財産だけ変更したい場合

💡 ポイント:財産目録を「更新しやすい設計」にするには、①残高・株数などの変動する数値は目録に書かず、口座番号・証券会社名など「特定できる情報だけ」を記載する、②不動産については登記事項証明書のコピーを使うことで売却時に内容が自然に陳腐化しにくくする——この2点を意識すると、差し替え頻度を減らすことができます。

まとめ——財産目録は「作る」より「使える状態に保つ」ことが大切

遺言書に添付する財産目録は、2019年の法改正によりパソコンで作成できるようになりました。ただし、「パソコンOKなのは財産目録のみ」「各ページへの署名押印は必須」「本文とは別の用紙に作成」の3点は絶対に守る必要があります。法務局の保管制度を利用する場合は、さらにA4・片面・余白の書式制約が加わります。

財産目録は一度作れば終わりではなく、財産の変動に合わせて更新・差し替えが必要です。「後で困らない精度」で記載し、「更新しやすい設計」にしておくことが、遺言書全体の実効性を高めることにつながります。自筆証書遺言全体の書き方・保管方法については、下記の記事もあわせてご覧ください。

よくある質問

Q1. 財産目録は遺言書に必ず添付しなければなりませんか?

いいえ、財産目録の作成・添付は法律上の義務ではありません。財産の数が少なく、遺言書本文に詳細を直接手書きできる場合は、財産目録なしでも遺言書は有効です。ただし財産の種類が多い場合や、複数の相続人に財産を分ける場合は、財産目録があることで遺言書の本文が短くなり、相続手続きがスムーズになります。

Q2. 財産目録を作成したら、遺言書本文にはどう書けばいいですか?

遺言書本文には「別紙財産目録1記載の財産を○○(相続人氏名)に相続させる」という形で参照します。複数の相続人に異なる財産を渡す場合は「別紙財産目録1をAに」「別紙財産目録2をBに」と目録を分けて作成し、それぞれを本文で参照する方法が明確です。

Q3. 財産目録に署名押印する印鑑は遺言書本文と同じものでなければなりませんか?

法律上は、財産目録に使う印鑑を遺言書本文と同一のものにする義務はありません。実印でなくても構いません。ただし、偽造・改ざんのリスクを低くする観点から、本文と同一の印鑑(できれば実印)を使うことが実務上は推奨されています。法務局保管制度を利用する場合も同様です。

Q4. 通帳のコピーを財産目録として添付する場合の注意点は何ですか?

通帳のコピーをそのまま添付することは認められていますが、コピー自体にも各ページへの署名押印が必要です。また法務局保管制度を利用する場合は、通帳はA6・B6サイズのものが多いため、A4用紙に拡大コピーして書式要件(A4・余白・片面)を満たす必要があります。通帳には残高が表示されているため、定期的な差し替えを前提とするか、口座情報(金融機関・支店・口座番号)だけをパソコンで整理したリストを作る方が長期的には管理しやすくなります。

Q5. 財産目録を誤字・脱字で修正する場合はどうすればいいですか?

パソコン作成の財産目録を修正する方法は2つあります。①正式な訂正方法(変更箇所を二重線で消し、正しい内容を付記して署名押印する)か、②財産目録全体を作り直して再度署名押印する方法です。実務的には、パソコン作成の目録は作り直す方が簡単なため、修正が必要な場合は全体を差し替えることをお勧めします。なお、訂正には遺言書本文の訂正方法(民法968条3項)と同じ手順が必要です。

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