遺言書を撤回する方法|破棄・新遺言書作成の注意点

遺言書の撤回手続きを確認する場面のイメージ 遺言書作成

「やっぱり内容を変えたい」「あの財産は別の人に渡したい」—遺言書を作成したあと、気持ちが変わることは珍しくありません。しかし、撤回の方法を誤ると、古い遺言がそのまま有効になったり、撤回のために作った新しい遺言書が無効になるケースがあります。本記事では、遺言書の種類別に撤回手続きの具体的な方法を解説するとともに、遺言者本人が気づかないまま「撤回になっていた」撤回擬制のトラップについても詳しく説明します。

遺言書の撤回は「いつでも・何度でも」できる—民法の大原則

民法1022条は「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる」と定めています。これは遺言者の意思の自由を最大限に保護する規定であり、撤回に正当な理由は必要ありません。また、撤回の回数に制限もなく、1回作成した遺言書を何度でも書き直すことができます。

📌 遺言撤回の大原則(民法1022条)
遺言者は、いつでも・理由なく・何度でも、遺言の全部または一部を撤回できる。ただし、撤回は必ず「遺言の方式」に従って行わなければならない。

ただし、注意すべき重要な原則が2つあります。第一に、撤回できるのは遺言者本人のみで、代理人による撤回は認められません。第二に、一度撤回した遺言は原則として復活しない(民法1025条の非復活主義)という点です。撤回を撤回しても、以前の内容が復活するわけではないため、古い内容に戻したい場合は改めて同じ内容の遺言書を作成する必要があります。

遺言書の種類別 撤回手続きの具体的な方法

撤回の方法は、現在お持ちの遺言書の種類によって異なります。遺言書の種類を確認してから、適切な手続きを選択してください。

自筆証書遺言(手元保管)の撤回方法

手元に保管している自筆証書遺言の場合、最もシンプルな撤回方法は遺言書を故意に破棄することです(民法1024条)。ただし「故意」であることが必要で、誤って破損した場合や紛失した場合は、遺言の効力が残ることがあります。破棄後は破棄した記録(日付・方法)を残しておくことが望ましいです。

新しい遺言書を作成して撤回することも可能です。この場合、新しい遺言書に「令和◯年◯月◯日付で作成した自筆証書遺言を撤回する」と明記しておくと後日の混乱を防げます。また、新しい遺言書の方式は、自筆証書遺言でも公正証書遺言でも構いません。

自筆証書遺言(法務局保管制度利用中)の撤回方法

法務局の遺言書保管制度を利用している場合、法務局で保管の撤回申請(保管の申請の撤回)を行い、遺言書を手元に返還してもらったうえで破棄する必要があります。重要な注意点として、法務局への撤回申請は「保管の撤回」であり、遺言書自体の撤回ではありません。手元に戻ってきた遺言書を破棄して初めて遺言の撤回となります。

⚠️ 注意:法務局への「保管撤回申請」だけでは、遺言書の効力は消えません。返還された遺言書を実際に破棄するまで、法的には有効な遺言書として残り続けます。

公正証書遺言の撤回方法

公正証書遺言の原本は公証役場に保管されており、手元にある正本・謄本を破棄しても遺言の効力には影響しません。公正証書遺言を撤回するには、次の2つの方法があります。

撤回方法内容・費用主な特徴
①公証役場で撤回の申述をする実印・印鑑登録証明書(3か月以内)・証人2名が必要。手数料1万1,000円(撤回のみの場合)原本を無効にできる。ただし後から遺言書を新たに作らない場合は遺言なしの状態になる
②新しい遺言書を作成して撤回する新しい遺言書に「◯年◯月◯日付の公正証書遺言を撤回する」と明記する撤回と同時に新しい意思を残せる。自筆証書遺言でも可能だが、方式不備のリスクあり

なお、公正証書遺言を撤回するための新しい遺言書は、自筆証書遺言でも法律上は有効です。ただし、自筆証書遺言に方式の不備があると撤回そのものが無効となり、古い公正証書遺言が生き続けるリスクがあります。確実を期すなら、新しい遺言書も公正証書遺言の形式で作成することをお勧めします。

知らないうちに起きる「撤回擬制」のトラップ

遺言書の撤回は、遺言書を明示的に撤回する意思がなくても、一定の行為によって「撤回したものとみなされる」場合があります。これを撤回擬制(民法1023条・1024条)といいます。実務上、遺言書を作成した当時とは状況が変わり、本人が気づかないまま一部の遺言が無効になっているケースが少なくありません。

撤回擬制が起きる3つの場面

場面具体例撤回の範囲
①前の遺言と抵触する新しい遺言を作成した「不動産は長男に」という遺言の後、「不動産は次男に」という遺言を作成抵触する部分のみ。抵触していない部分は旧遺言が有効のまま
②遺言と抵触する生前処分をした「長男に自宅を相続させる」と書いた後、その自宅を売却・贈与した処分した財産に関する部分のみ
③遺言書または遺贈目的物を故意に破棄した自筆証書遺言を意図的に焼却・シュレッダー処分した破棄した部分(または遺言書全体)

📌 実務上の落とし穴:「遺言内容を忘れていた」は通らない
②の生前処分による撤回擬制は、遺言者が遺言の存在や内容を忘れていた場合でも適用されます(民法1023条2項)。遺言書作成後に不動産を売却・贈与した場合は、その部分の遺言が撤回されているため、遺言執行時にトラブルになりやすいです。

離婚後に遺言書が有効なままになるリスク

遺言書作成後に配偶者と離婚した場合、遺言書の内容は原則として有効なままです。配偶者が相続人でなくなった場合でも、「配偶者に全財産を渡す」という遺言書の内容は生き続けます。離婚後に遺言書を撤回・更新しないまま亡くなると、元配偶者に財産が渡る可能性があるため、離婚・再婚・養子縁組などの家族関係の変化があった際は、必ず遺言書を見直してください。

撤回するかどうかの判断フロー

遺言書の内容を変えたいと思ったとき、「全部撤回して書き直す」か「一部だけ変える」かで手続きの複雑さが大きく変わります。また、遺言書の種類によって選択できる手段も異なります。

変更したい範囲現在の遺言書の種類推奨される対応
全部変えたい自筆証書遺言(手元保管)旧遺言書を破棄し、新しい遺言書を全部作成(公正証書が望ましい)
全部変えたい公正証書遺言新しい遺言書を作成して「◯年付の公正証書遺言を全部撤回する」と明記
一部だけ変えたい自筆証書遺言(手元保管)実務上は全部撤回して全部書き直すのが推奨(一部撤回は解釈トラブルのリスク大)
一部だけ変えたい公正証書遺言変更・更生証書の作成(公証人手数料が別途必要)、または全部撤回して書き直し
撤回せずに内容を確認したいいずれもまず現在の遺言書の内容を確認し、家族関係・財産状況と照らし合わせる

💡 ポイント:一部撤回は「解釈の余地」が残るため、相続人間でトラブルになりやすいです。実務上は、一部だけ変えたい場合でも全部撤回して全文を書き直す方法が推奨されています。

新遺言書作成時に確認すべき5つの注意点

遺言書を撤回して新しい遺言書を作成する際は、以下の5点を必ず確認してください。撤回の手続き自体は正しくても、新遺言書に問題があれば、撤回の効力が消えて古い遺言書が復活するリスクがあります。

  1. 旧遺言書の特定情報を記載する:新遺言書に「令和◯年◯月◯日付で作成した遺言書を撤回する」と具体的に記載し、複数の遺言書がある場合でも混乱が起きないようにする
  2. 自筆証書遺言の方式を完全に満たす:全文・日付・氏名の自署、押印の3要素がすべて必要。財産目録のみパソコン作成が許容されるが、本文は手書きが必須
  3. 古い正本・謄本は処分する:公正証書遺言の場合、手元の正本・謄本を残しておくと、相続人が「これが唯一の遺言書」と誤解する可能性がある。ただし処分しても原本は公証役場に残るため、新しい遺言書で明示的に撤回することが重要
  4. 撤回後の一覧を整理する:複数の遺言書がある場合、「最も新しい遺言書」が有効であることを家族が知っているかを確認し、エンディングノートなどに遺言書の所在・日付を記録しておく
  5. 法務局保管を活用する:新しく作成した自筆証書遺言は法務局の保管制度を利用すると紛失リスクを防げる。ただし保管申請時点での遺言書の内容を公証人がチェックするわけではないため、方式の正確さは自己責任

遺言書の定期見直しタイミング一覧

「作ったら終わり」という意識が、後々のトラブルを生みます。遺言書は以下のタイミングで必ず見直すことをお勧めします。

見直しのタイミング確認すべき内容
相続人・受遺者の死亡または誕生受遺者が先に亡くなった場合、その遺贈は失効する(代わりに誰に渡すかを再検討)
離婚・再婚・養子縁組配偶者・子どもの変更により遺留分の計算が変わる。旧遺言書の相続人が変わっている場合も
主要財産の売却・取得遺言書に書いた不動産や金融資産が変わっている場合、撤回擬制が起きていないか確認
遺言書作成から5年以上経過した場合財産状況・家族関係の変化を確認。気持ちの変化がなくても一度見直しを推奨
重篤な病気の診断を受けたとき判断能力があるうちに内容を確認・更新する。認知症が進むと新たな遺言書の作成が困難になる

まとめ:遺言書の撤回は「方法の正確さ」と「撤回後の一貫性」が鍵

遺言書の撤回はいつでも・何度でも可能ですが、遺言の種類によって手続きが異なり、方法を誤ると意図しない結果を招きます。とくに注意すべき点は次の3つです。

  • 公正証書遺言は正本を破棄しても撤回にならない—必ず新遺言書の作成か公証役場での撤回申述が必要
  • 一度撤回した遺言は復活しない—撤回を撤回しても古い内容は戻らないため、内容を復活させたい場合は同じ内容の新しい遺言書を作成する
  • 意図せず起きる撤回擬制に注意—遺言書作成後の財産処分や矛盾する遺言の作成は、気づかないうちに遺言の一部を無効にする可能性がある

遺言書は作成して終わりではなく、定期的な見直しが必要です。遺言書の種類・保管方法から選び方まで、基本から確認したい方は以下のピラーページもご覧ください。

👉 遺言書の書き方完全マニュアル|自筆・公正証書の違いと費用

👉 遺言書3種類の違いと選び方|自筆・公正証書・秘密証書

よくある質問(FAQ)

Q1. 遺言書を破棄すれば撤回になりますか?

自筆証書遺言(手元保管)の場合は、故意に破棄すれば撤回となります。ただし公正証書遺言の場合、手元の正本・謄本を破棄しても原本が公証役場に残るため、撤回の効力は生じません。公正証書遺言を撤回するには、新しい遺言書を作成するか、公証役場で撤回の申述が必要です。

Q2. 一度撤回した遺言を復活させることはできますか?

民法1025条の非復活主義により、撤回した遺言を撤回しても、以前の遺言の内容は復活しません。一度撤回した内容に戻したい場合は、改めて同じ内容の遺言書を作成し直す必要があります。ただし例外として、撤回行為が錯誤・詐欺・強迫によって行われた場合は、裁判所を通じて取り消せる可能性があります。

Q3. 公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回できますか?

法律上は可能です。遺言の撤回は遺言の方式に従えばよく、方式は前の遺言書と同一である必要はありません(民法1022条)。ただし、自筆証書遺言に方式の不備(全文手書きでない、日付が不正確など)があると、撤回そのものが無効となり古い公正証書遺言が有効のまま残ります。確実な撤回を望むなら、新しい遺言書も公正証書遺言で作成することをお勧めします。

Q4. 遺言書の一部だけ変更したい場合はどうすればよいですか?

自筆証書遺言の場合、軽微な変更は民法968条3項の方式(変更箇所の指示・変更内容の付記・署名・押印)で行えますが、手順が複雑で不備が起きやすいです。実務上は、一部変更であっても全部撤回して全文を書き直す方法が推奨されています。公正証書遺言の一部変更は、公証役場での更生証書の作成が必要です。一部撤回の場合は「撤回される部分」と「残存する部分」の2通の遺言書で手続きすることになり、煩雑になるリスクがあります。

Q5. 新しい遺言書に「撤回する」と書かなくても古い遺言は無効になりますか?

民法1023条1項により、新しい遺言が前の遺言と抵触する場合は、その抵触する部分について撤回したものとみなされます。つまり、明示的な「撤回する」の記載がなくても、内容が矛盾・抵触する部分については後の遺言が優先されます。ただし、抵触していない部分については前の遺言の効力が残るため、複数の遺言書が存在する状態になります。解釈の余地を残さないためには、新しい遺言書に「前の遺言を撤回する」と明記したうえで全内容を書き直すことが最善です。

※本記事に関する注意事項
本記事は2026年時点の法令・制度に基づく一般的な情報提供を目的としています。記事内容は執筆時点の情報であり、法改正や個別事案により取扱いが異なる場合があります。
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