「会社の株式を相続したが、税務署にはいくらで申告すればいいのか」—こんな疑問を抱える後継者は少なくありません。非上場株式には上場株式のような市場価格が存在しないため、国税庁が定めたルールに従って評価額を計算しなければなりません。そして評価方式の違いで相続税額が2〜3倍以上変わることも珍しくありません。中小企業オーナーの後継者として、どの評価方式が適用されるのかを事前に把握しておくことは、申告ミスの防止だけでなく節税対策の基本でもあります。この記事では、後継者が最初に確認すべき評価方式の判定手順から、類似業種比準価額・純資産価額の仕組み、実務的な節税対策まで体系的に解説します。
「どの評価方式か」を3ステップで判定する—後継者が最初に確認すること
非上場株式の評価方法は、すべての人に同じ方式が適用されるわけではありません。「誰が取得するか」「どんな会社か」「会社の規模はどのくらいか」の3つの軸によって適用方式が決まります。この順番で確認することで、自社の株式がどの評価方法になるかを把握できます。
ステップ1:取得者の立場を確認する
相続や贈与で非上場株式を取得した場合、まず取得者が「同族株主等」か「少数株主」かで適用される評価方式が変わります。
同族株主とは、筆頭株主グループ(最も多くの株式を保有するグループ)が30%以上の議決権を持つ場合において、そのグループに属する株主を指します。後継者として会社の経営に関与する立場であれば、通常は同族株主等に該当します。同族株主等には「原則的評価方式(類似業種比準価額方式・純資産価額方式)」が適用されます。
一方、経営に関与しない少数株主が取得した場合は「配当還元方式(特例的評価方式)」が適用されます。配当還元方式は配当金額をもとにした評価で、原則的評価方式に比べて大幅に低い評価額になるのが一般的です。
ステップ2:特定の評価会社に該当するか確認する
同族株主等が取得する場合でも、評価する会社が「特定の評価会社」に該当する場合は、原則として純資産価額方式のみが適用されます。特定の評価会社には次のような種類があります。
- 株式等保有特定会社:総資産の50%以上が株式・出資で構成される会社
- 土地保有特定会社:総資産の70〜90%以上(規模により異なる)が土地などで構成される会社
- 比準要素数ゼロの会社・1の会社:類似業種比準の3要素(配当・利益・純資産)のうちゼロが多い会社
- 開業後3年未満の会社・開業前の会社
- 清算中の会社
⚠️ 注意:特定の評価会社に該当すると、通常より評価額が高くなりやすい純資産価額方式のみが適用されます。不動産や株式を多く保有する会社は特に注意が必要です。
ステップ3:会社の規模(大・中・小会社)を判定する
特定の評価会社に該当しない場合、会社の規模(大会社・中会社・小会社)によって適用する評価方式が変わります。まず従業員が70人以上であれば業種を問わず大会社です。70人未満の場合は、業種と取引金額・総資産の基準(帳簿価額)で大・中・小に分類されます。
| 会社規模 | 評価方式(原則) | 斟酌率 |
|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準価額方式 | 0.7 |
| 中会社(大) | 類似業種比準価額 × 0.90 + 純資産価額 × 0.10 | 0.6 |
| 中会社(中) | 類似業種比準価額 × 0.75 + 純資産価額 × 0.25 | 0.6 |
| 中会社(小) | 類似業種比準価額 × 0.60 + 純資産価額 × 0.40 | 0.6 |
| 小会社 | 純資産価額方式(類似業種との折衷も選択可) | 0.5 |
📌 ポイント
どの会社規模の区分でも、純資産価額方式による評価額と比較して低い方を選ぶことができます。類似業種比準価額方式の結果が純資産価額方式より低ければ、その低い金額を採用できます。
非上場株式の評価方法は3種類—原則的評価方式の全体像
同族株主等が取得する非上場株式の評価方式(原則的評価方式)は、大きく3種類あります。それぞれの評価方式の特徴と、主に適用される会社規模を整理します。
| 評価方式 | 概要 | 主に適用される会社規模 |
|---|---|---|
| 類似業種比準価額方式 | 同業種の上場企業の株価・配当・利益・純資産を参考に評価額を算出 | 大会社(原則) |
| 純資産価額方式 | 会社の全資産を相続税評価額に換算し、負債を差し引いた純資産をもとに算出 | 小会社(原則) |
| 折衷方式(併用方式) | 類似業種比準価額と純資産価額をLの割合で組み合わせて算出 | 中会社(原則) |
配当還元方式は少数株主が取得した場合に用いる特例的評価方式です。株式の価値を「配当を受け取る権利」として捉えるため、評価額は原則的評価方式より大幅に低くなります。経営に参加する後継者(同族株主等)には適用されません。
類似業種比準価額方式の仕組みと計算の流れ
類似業種比準価額方式は、評価会社と業種が類似する上場会社の株価をもとに、配当金額・利益金額・純資産価額の3つの比準要素を比較して算出する方法です。一般的に純資産価額方式よりも評価額が低くなる傾向があり、会社の規模が大きいほど(大会社ほど)この方式の比重が高くなります。
計算式の仕組みを理解する
類似業種比準価額の計算式は次のとおりです(評価会社の資本金等の額を1株50円として換算した数値を使用します)。
類似業種比準価額 = 類似業種の株価(A)×(b/B + c/C + d/D)÷ 3 × 斟酌率
| 記号 | 内容 |
|---|---|
| A | 類似業種の株価(国税庁が毎月公表する業種目別株価) |
| B | 類似業種の1株当たり配当金額 |
| C | 類似業種の1株当たり年利益金額 |
| D | 類似業種の1株当たり簿価純資産価額 |
| b | 評価会社の1株当たり配当金額(直前期末以前2年間の平均) |
| c | 評価会社の1株当たり年利益金額(直前期末以前1〜2年間の数値を使用) |
| d | 評価会社の1株当たり簿価純資産価額(直前期末の数値) |
斟酌率は会社規模に応じて大会社0.7・中会社0.6・小会社0.5が適用されます。会社が小さくなるほど斟酌率が下がるため、この方式での評価額も下がる傾向があります。また、類似業種の株価(A)は課税時期の属する月・前月・前々月・前年平均・課税時期前2年間の平均のうち最も低い値を使用できます。
類似業種の選択が評価額を大きく左右する
計算の際、どの「類似業種」(国税庁の業種目)を選ぶかによって参照する上場企業の株価が変わり、評価額が大幅に変動します。複数の業種にまたがる事業を展開している場合、国税庁の「業種目一覧」と総務省の「日本標準産業分類」を照らし合わせ、主たる事業に最も近い業種目を慎重に選択することが重要です。業種目の選択は専門的な判断を伴うため、相続税に精通した税理士との協議が不可欠です。
純資産価額方式の仕組みと「37%控除」の意味
純資産価額方式は、会社を現時点で解散・清算した場合に株主が受け取れる金額を基準に評価する方法です。会社の全資産を相続税評価額(時価)に置き換え、負債を差し引いた純資産が評価の基礎になります。
計算ステップ(基本的な流れ)
- 会社の全資産を相続税評価額(時価)に評価替えし、負債を差し引く(相続税評価による純資産)
- 帳簿価額による純資産との差額(含み益)を計算する
- 含み益 × 37%(法人税等相当額)を差し引く
- 差し引いた後の純資産 ÷ 発行済株式数 = 1株あたりの評価額
37%控除(法人税等相当額)の仕組み
純資産価額方式では、「含み益(相続税評価額による純資産 − 帳簿価額による純資産)」に対して37%相当額を控除します。会社が資産を売却した場合に負担する法人税等を差し引くことで、評価の公平性を確保するための仕組みです。
たとえば、相続税評価額による純資産が1億円・帳簿価額による純資産が5,000万円・発行済株式数が1万株の場合、計算は次のとおりです。
1株当たり純資産価額 =(1億円 −(1億円 − 5,000万円)× 37%)÷ 1万株 =8,150円
含み益が大きい(不動産の帳簿価額と時価の差が大きい)会社ほど、37%控除のメリットが大きくなります。一方、含み損がある場合は控除がなく、帳簿価額での純資産が評価の基礎になります。
⚠️ 注意:課税時期前3年以内に取得した土地・建物は、通常の相続税評価額(路線価など)ではなく取得時の時価で評価しなければなりません。相続直前に不動産を購入していた場合、評価額が想定より高くなるケースがあります。
中会社に適用される折衷方式—Lの値で計算割合が変わる
中会社には、類似業種比準価額方式と純資産価額方式を一定割合で組み合わせた「折衷方式(併用方式)」が適用されます。この割合を決めるのが「L(エル)の値」で、中会社の規模区分(大・中・小)によって異なります。
折衷方式の計算式:評価額 = 類似業種比準価額 × L + 純資産価額 ×(1 − L)
| 中会社の区分 | Lの値 | 類似業種の比重 | 純資産の比重 |
|---|---|---|---|
| 中会社(大) | 0.90 | 90% | 10% |
| 中会社(中) | 0.75 | 75% | 25% |
| 中会社(小) | 0.60 | 60% | 40% |
中会社(大)に近いほど大会社的な評価(類似業種比準価額の比重が大きい)になります。なお、折衷方式で算出した評価額と純資産価額方式で算出した評価額を比較し、低い方を選択することも認められています。
評価額を抑えるための実務的な対策
非上場株式の評価額を下げる対策は、相続が発生してからでも打てるものと、生前から計画的に実施すべきものがあります。どの対策も専門家との連携が前提ですが、後継者として知っておきたいポイントを整理します。
死亡退職金を活用して純資産価額を圧縮する
オーナー経営者が亡くなった場合、会社から「死亡退職金」を支給することができます。死亡退職金の支給額は会社の負債として計上されるため、純資産価額方式での評価額が下がります。また、死亡退職金の受取人は相続税計算において「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠を使えます。純資産価額方式が適用される小会社や特定の評価会社では、この対策の効果が特に大きく出ます。相続開始後に支給の意思決定をすることも可能なため、まず顧問税理士に確認することをお勧めします。
業種目の選択を慎重に行う
類似業種比準価額方式の計算では、どの「業種目」を選ぶかによって参照する上場企業の株価が変わり、評価額が数百万円単位で変動することがあります。複数の事業を展開する会社では、主たる事業に基づく業種目の判定が重要です。国税庁の業種目一覧は細分化されており、専門家による慎重な選択が求められます。
特定の評価会社への分類を生前から回避する
不動産を多く保有する会社が「土地保有特定会社」に該当してしまうと、純資産価額方式のみの評価となり、評価額が高くなります。生前に資産構成を見直し、特定の評価会社への分類を回避する対策(「特定評価会社はずし」と呼ばれます)を講じることで、評価額を抑えられる可能性があります。ただし相続開始直前の対策は税務署に否認されるリスクがあるため、時間をかけて計画的に実施することが重要です。
💡 ポイント:2025年2月、会計検査院が非上場株式の相続税評価方法について見直しを検討するよう国税庁に求めたとする報道がありました。現行の類似業種比準価額方式は評価額が低くなりやすいと指摘されており、将来的な制度改正の可能性があります。現行ルール下での対策は、早めに専門家と協議することが得策です。
まとめ
非上場株式の相続税評価は、「誰が取得するか」「特定の評価会社か」「会社の規模はどのくらいか」の3ステップで適用方式が決まります。評価方式の違いで相続税額が大きく変わるため、後継者として事前に把握しておくことが重要です。
類似業種比準価額方式は同業種の上場企業と比較するため、一般に純資産価額方式よりも評価額が低くなりやすい特徴があります。中会社にはLの値で計算割合を決める折衷方式が適用されます。死亡退職金の活用や業種目の慎重な選択など、専門家と連携した対策が効果的です。
非上場株式の評価は相続税申告の中でも特に専門性が高い分野です。評価方式の判定や計算の実務は、相続税に精通した税理士に依頼することをお勧めします。
相続税全体の節税対策については、以下の記事も合わせてご参照ください。
👉 相続税の計算方法と節税対策|税理士が教える実践テクニック
よくある質問(FAQ)
Q1. 非上場株式の評価は自分で計算できますか?
計算式自体は公開されていますが、類似業種の業種目の選択・会社規模の判定・特定評価会社の確認など、専門的な判断が多数必要です。計算ミスや評価誤りは税務調査で指摘を受ける可能性があるため、相続税申告の経験が豊富な税理士への依頼を強くお勧めします。
Q2. 配当還元方式はどのような場合に使いますか?
配当還元方式は、経営に関与しない少数株主が非上場株式を取得した場合に適用される特例的評価方式です。同族株主等(経営支配グループに属する株主)には適用されず、原則的評価方式(類似業種比準価額方式・純資産価額方式)が使われます。後継者が取得する場合は原則として配当還元方式は使えません。
Q3. 純資産価額方式と類似業種比準価額方式ではどちらが評価額は低くなりますか?
一般的には類似業種比準価額方式の方が評価額が低くなるケースが多いです。特に業績が赤字の年や利益が少ない時期は、比準要素の評価会社の数値が小さくなるため、類似業種比準価額が大幅に下がることがあります。ただし業種・財務状況によっては純資産価額方式の方が低くなる場合もあるため、個別に計算して比較することが重要です。
Q4. 会社規模の判定はいつの数字を使いますか?
会社規模の判定は、相続開始日(課税時期)の直前期末時点の数字(従業員数・総資産価額・取引金額)を使用します。直前期末とは、相続開始日の直前に終了した事業年度の末日を指します。直前期末から相続開始日までの間に大きな変動があった場合でも、原則として直前期末の数字を使います。
Q5. 株式の評価額が高くて相続税が払えない場合はどうなりますか?
非上場株式の評価額が高く現金での納付が困難な場合、「延納(分割払い)」や「物納(株式での納税)」の制度があります。また、後継者が一定の要件を満たせば「事業承継税制(非上場株式等の相続税の納税猶予制度)」を活用して、相続税の全部または一部の納税を猶予・免除してもらえる制度もあります。要件が複雑なため、相続開始前から税理士への相談をお勧めします。
本記事は2026年時点の法令・制度に基づく一般的な情報提供を目的としています。記事内容は執筆時点の情報であり、法改正や個別事案により取扱いが異なる場合があります。
個別の事案については、弁護士・税理士・司法書士・行政書士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことで生じた損害について、当サイトは責任を負いかねます。

コメント