遺言執行者とは?選び方と役割|専門家に頼む場合の費用も解説

相続税の配偶者控除で悩む日本人の配偶者と弁護士が相談している様子 遺言書作成

遺言書を書き終えたとき、ふと思う方がいます。「この遺言、本当に実行されるのだろうか」と。自分が亡くなった後のことは、確かめる術がありません。遺言執行者とは、その不安に応えるために存在する制度です。遺言の内容を法的に実現する権限を持ち、相続人が手続きを妨げることも許されない——そこまで強い権限が与えられています。この記事では、遺言執行者の役割・選び方・専門家に頼む場合の費用相場まで、実務的な観点からわかりやすく解説します。

遺言執行者を指定しないと何が起きるのか

「遺言書があれば自動的に手続きが進む」と思っている方は少なくありません。しかし現実は違います。遺言執行者の指定がない場合、相続人全員が協力して手続きを進める必要があります。


たとえば、不動産の名義変更(相続登記)や預金口座の解約・分配には、通常、相続人全員の署名・実印が求められます。相続人のうち1人でも協力を拒めば、手続きが止まります。遺言書の内容が気に入らない相続人がいれば、意図的に手続きを遅延させることも可能です。

⚠️ 注意:遺言執行者が選任されている場合、相続人は遺言の執行を妨げる行為をすることができません(民法第1013条)。この禁止規定は、遺言執行者がいない状態では機能しません。

また、非嫡出子(婚外子)の認知や、相続人の廃除・廃除取消しは、法律上、遺言執行者なしでは実現できません。これらが遺言書に含まれている場合、遺言執行者の指定は任意ではなく必須です。

遺言執行者の役割と権限

遺言執行者とは、遺言者の死後に遺言の内容を実現するために必要な一切の手続きを行う権限と義務を持つ人のことです(民法第1012条)。令和元年7月の民法改正により、遺言執行者の権限は「相続人の代理人」から「遺言内容の実現者」へと明確化されました。

遺言執行者が担う主な業務

業務具体的な内容
就任通知・財産目録の作成就任承諾後、相続人全員に通知し、対象財産の目録を作成・交付
不動産の名義変更法務局へ相続登記申請(遺言執行者名義で申請可能)
預金口座の解約・分配各金融機関での解約手続きと相続人への分配
株式・有価証券の名義変更証券会社への連絡・名義変更手続き
認知の届出市区町村役場への認知届提出(就任から10日以内)
相続人の廃除申立て家庭裁判所への廃除・廃除取消しの申立て
業務完了報告すべての相続人への完了通知と報告

📌 遺言執行者にしかできない手続き
①非嫡出子の認知の届出(民法第781条2項)②相続人の廃除・廃除取消しの申立て(民法第893条)——この2つは遺言執行者の選任が法律上必須です。

遺言執行者の義務

権限が強い分、義務も重くなります。善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)のもと、職務を遂行しなければなりません。相続人への定期的な報告義務もあり、通知義務を怠ると家庭裁判所への解任申立ての対象になります。また、遺言の執行過程で財産に損害を与えた場合は、損害賠償責任を負います。

遺言執行者になれる人・なれない人

遺言執行者に特別な資格は必要ありません。ただし、未成年者と破産者はなることができません(民法第1009条)。相続人の誰か、親族、友人、あるいは弁護士・司法書士・信託銀行などの専門家・法人も就任できます。

区分なれる / なれない備考
成人の相続人○ なれる無報酬が多いが負担は大きい
未成年者✕ なれない民法第1009条で禁止
破産者✕ なれない同上
弁護士・司法書士・行政書士○ なれる資格者として信頼性が高い
信託銀行・法人○ なれる遺言信託サービスとして提供
受遺者(遺言で財産を受け取る人)○ なれるただし利益相反リスクに注意

遺言執行者の選任方法は3通り

遺言執行者を決める方法は、大きく3つあります。

①遺言書で直接指定する(最も一般的)

遺言書に「遺言執行者として○○(氏名・住所)を指定する」と記載する方法です。遺言者が最も意図を込めて選べる方法であり、実務でも最も多く用いられます。ただし、指名された人が就任を拒否した場合や、先に亡くなっていた場合のことを考えて、予備の候補者も記載しておくと安心です。

💡 ポイント:遺言執行者として指名する場合は、事前に本人の了承を得ておきましょう。承諾なしに指名すると、死後に断られて手続きが止まるリスクがあります。

②選定を第三者に委託する

誰を指定すべきか決めかねている場合は、「遺言執行者の選定を○○弁護士に委託する」という形で、選定権限だけを第三者に任せることもできます(民法第1006条第1項)。

③家庭裁判所に選任を申立てる

遺言書に指定がない場合、指定された人が辞退・死亡した場合などは、利害関係人(相続人・受遺者など)が家庭裁判所に選任の申立てができます(民法第1010条)。

申立てに必要な書類
申立書(裁判所ホームページからダウンロード)
被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
遺言執行者候補者の住民票または戸籍の附票
遺言書の写し、または検認調書謄本の写し
利害関係を証明する書類(戸籍謄本など)
収入印紙800円 + 郵便切手代

専門家に頼む場合の費用比較と選び分け

専門家を遺言執行者に選ぶ場合、誰に頼むかによって費用が大きく変わります。専門家への依頼を検討する際、費用の数字だけでなく重要なのは「どのケースで誰を選ぶか」の判断基準です。以下に実務的な選び分けのポイントを整理します。

依頼先報酬の目安向いているケース
弁護士遺産総額の1〜3%程度(最低30万円〜)相続人間に紛争・対立がある/訴訟リスクがある
司法書士遺産総額の約1%(最低30万円〜)不動産が主な財産で登記手続きが中心
行政書士20〜40万円程度財産が預金・動産のみで比較的シンプル
信託銀行(遺言信託)遺産総額の1〜1.5%(最低100〜300万円)財産が大きい/長期的な管理・サポートを望む
相続人自身無報酬または20〜30万円程度相続人全員が協力的でトラブルの懸念がない

📌 選び分けのポイント
①争いが起きそうなら→弁護士 ②不動産が多いなら→司法書士 ③財産が大きく一括管理したいなら→信託銀行(遺言信託) ④協力的でシンプルな相続なら→相続人が自分で対応

なお、信託銀行の遺言信託は「遺言書の作成・保管・執行」をパッケージで提供するサービスです。費用は高めですが、遺言書の内容見直しや相続人への連絡も含めてトータルサポートを受けられる点が特徴です。一方、弁護士・司法書士は遺言執行のみを単独で依頼でき、費用を抑えやすいです。

報酬の支払い方法と費用負担者

遺言執行者への報酬は、遺言書に金額または算出方法を明記するのが最もトラブルを防げる方法です。遺言に定めがない場合は、相続人との協議か、家庭裁判所が決定します。報酬の支払いは、相続財産の中から支出されるのが原則です(民法第1021条)。

遺言執行者を指定すべきかどうかの判断基準

すべての遺言に遺言執行者が必要というわけではありません。次の基準で判断しましょう。

指定が必須のケース

  • 非嫡出子の認知を遺言に含めている
  • 相続人の廃除・廃除取消しを遺言に含めている

指定を強くすすめるケース

  • 相続人の間に不仲・対立がある
  • 相続人以外の第三者(内縁の配偶者・特定の友人など)への遺贈がある
  • 相続財産が多く、手続きが複雑
  • 相続人に高齢者・海外在住者がおり、手続きへの参加が困難
  • 遺言通りに執行されるか不安がある

指定が不要なケース

  • 相続人全員が遺言内容に同意しており、協力関係に問題がない
  • 財産がシンプルで手続きの難易度が低い
  • 認知・廃除などの特殊な遺言事項がない

💡 ポイント:「今は仲がいいから大丈夫」と考えている方も多いですが、相続が始まると状況が一変することは珍しくありません。万が一に備えて専門家を指定しておくことが、遺言者の意思を確実に実現する「保険」になります。

まとめ:遺言執行者は「遺言の守り人」

遺言執行者は、遺言者が亡くなった後に遺言の内容を法的に実現するための「守り人」です。権限は強く、相続人による妨害行為は法律で禁止されています。一方で、善管注意義務・報告義務・通知義務など責任も重く、専門的な知識が求められます。

遺言書を作成する際は、①誰を遺言執行者にするか、②その人が断った場合の予備候補、③専門家に依頼する場合どの専門家が最適かを、遺言の内容や家族の状況に合わせて検討しましょう。

遺言書の作成や書き方の詳細については、以下のガイドも合わせてご覧ください。

👉 遺言書の書き方完全マニュアル|自筆・公正証書の違いと費用

👉 公正証書遺言の作成手順と費用

よくある質問

Q1. 遺言執行者は相続人がなることができますか?

はい、なることができます。未成年者と破産者以外であれば誰でも遺言執行者になれるため、相続人の1人が就任することもよくあります。ただし、相続人が遺言執行者になる場合は、自分の利益と遺言執行者としての職務が対立しやすい点に注意が必要です。相続人間に対立がある場合は、中立の第三者専門家への依頼が無難です。

Q2. 遺言執行者に指定されたが断ることはできますか?

はい、断ることができます。就任を断る場合に理由は不要です。相続人から「就任するか否か」の確認があった場合、一定の期間内に回答しなければ就任承諾とみなされます(民法第1008条)。断る際は速やかに意思表示を行いましょう。辞退後は、相続人の申立てにより家庭裁判所が新たな遺言執行者を選任します。

Q3. 遺言執行者の費用(報酬)はいつ、誰が払いますか?

報酬は原則として相続財産の中から支払われます(民法第1021条)。支払いのタイミングは遺言執行が完了した後が一般的です。遺言書に報酬額の記載がある場合はそれに従い、記載がない場合は相続人と協議するか、家庭裁判所が決定します。

Q4. 遺言執行者は途中で辞めることができますか?

就任後でも、正当な理由があれば家庭裁判所の許可を得て辞任できます(民法第1019条第2項)。また、遺言執行者が職務を怠ったり、義務に違反したりした場合は、相続人が家庭裁判所に解任を申し立てることもできます。

Q5. 公正証書遺言にも遺言執行者は必要ですか?

公正証書遺言でも、遺言執行者の指定は法律上の義務ではありません。ただし、相続内容が複雑な場合や相続人間にトラブルの懸念がある場合は、公正証書遺言であっても遺言執行者を指定することを強くおすすめします。公正証書遺言の作成時に、公証人や遺言書の作成を支援した専門家をそのまま遺言執行者として指定するケースも多くあります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました